数年前、銀座のタイ料理屋で食べたパイナップルチャーハンがとても美味しくて、食べた翌日に記憶をたどりながら作ってみました。
自画自賛なのですが、想像していた以上に美味しく出来上がり、それからパイナップルチャーハンが一週間に一度は食卓に上るようになりました。
ところがある日を境にあまり美味しく作れなくなってしまったのです。
同じ具材、同じ手順、ただ一つだけ違うもの、それは調味料でした。
イタリア産の魚醬が無くなり、別のメーカーのものを購入したことが原因でした。
チャーハンを美味しくしていたのは、代官山の「イータリー(EATALY)」というお店で購入したデルフィーノ社のコラトゥーラという魚醬だったのです。
デルフィーノ社はイタリアのナポリから約40km南に下った世界遺産に登録されているアマルフィ近郊のチェターラという町にあります。
地中海で獲れたカタクチイワシの内臓と頭を取り除き、約6ヶ月間熟成させて塩蔵アンチョビに仕上げ、それを円錐形の袋に詰めて濾過、その工程を10回繰り返してコラトゥーラが完成します。手作業で行われる製造方法は13世紀からの伝統を守り現在に至っています。
自宅でパイナップルチャーハンを作らなくなり、イタリアの魚醬のことは忘れていたのですが、最近、美味しいコラトゥーラに出会ってしまいました。
それは宇佐川滋さんという漁師さんが山口県で作っている「瀬戸内コラトゥーラ」です。
先日お会いする機会があり色々なお話を伺うことができました。
日本の魚醬といえば、秋田の「しょっつる」、奥能登の「いしる」、香川の「いかなご醤油」が有名です。伊豆諸島で作られる「クサヤ液」も魚醤の一種です。
東南アジアには、タイの「ナンプラー」、ベトナムの「ヌックマム」、フィリピンの「パティス」、カンボジアの「トゥック・トレイ」、ラオスの「ナンパー」、ミャンマーの「ンガンピャーイェー」、インドネシアの「ケチャップ・イカン」など、調べてみるといろいろな魚醬があります。
宇佐川さんはイタリアや東南アジアに赴き、魚醬を作っているメーカーを沢山見学されたそうです。
わざわざ海外まで行かれたのは、ご自分の住んでいる町の地場産業として魚醬作りを目指そうと考えたからです。
宇佐川さんの住んでいる山口県熊毛群平生町は過疎化が深刻な問題となっていて、25年後の2040年には人口が1万人を下回ると予想されています。
急速な少子化や高齢化に歯止めをかけるために町を活性化させる手段をずっと模索していたそうです。
瀬戸内海に面した熊毛群平生町はイタリアのアマルフィにも似た風光明媚な漁港で、新鮮で良質のカタクチイワシが獲れます。
酒粕と塩で発酵熟成させた無添加の魚醤はイタリアのコラトゥーラに負けない製品になりました。
コラトゥーラという名前がちょっと取っ付き難いかもしれませんが、お醤油のように手軽に料理に使える調味料です。
このコラトゥーラとの出会いから3か月、ワインと一緒に楽しめるおつまみを研究中です!