ワインはお料理と一緒に楽しみたいもの。
食事時以外でワインを飲むときもちょっとしたおつまみがあればご機嫌です。
晩ゴハンの献立に合わせてワインを選んでいる方もいらっしゃると思いますが、実は私、家ではテキトーにワインを選んでいます。
赤にするか、白にするか、はたまたロゼにするか。
ただし、特別なお店で食事をするときには料理に合うワインを真剣に考えます。
どんなにページ数が多いワインリストでも隅々までしっかり読み込むようにしています。
好感の持てるワインリストには、お店の個性がギュッと詰まっていてスタッフ皆様の心意気が感じられるものです。
ところが最近、お店のスタッフの方に選んでいただく料理とワインの組み合わせにはまっていて、ワインリストを手にしないことが度々あります。
「コース料理とワインのペアリング希望」と予約時に伝え、席に座ると同時に食事がスタートするスタイルが最近のお気に入りです。
1皿の料理に1種類のグラスワインの組み合わせ。
「この料理になぜこのワイン?」と思えることも新鮮で、新たな発見につながることもしばしばあります。
料理との「統一感」を楽しんだり、意外な「個性」に触れたり、どちらもペアリングの醍醐味だと思っています。
私は私なりに「料理とワインの組み合わせ」の基準があります。
その基準を作ってくれた師匠は、20代の頃に購入した大阪・あべの辻調理師学校校長、故・辻静雄氏の著書です。
辻静雄『フランス料理の学び方』三洋出版貿易.
辻静雄『パリの料亭(れすとらん)』柴田書店.
辻静雄『パリの居酒屋(びすとろ)』柴田書店.
辻静雄『フランス料理の手帳』鎌倉書房.
辻静雄『フランス料理の本』1~5巻, 講談社.
どれもこれも1970年~1980年代にかけて出版されたものですが、本がボロボロになるまで熟読しました。
ペアリングの師匠、故・辻静雄氏の本にはこんなことが書いてあります。
『どのワインがどの料理に合うかということも、とどのつまりは、その場限りのもの。
ある時、だれかが、料理を作り、その料理とワインがよくマッチしておいしかったと思うということ以外に、ワインの存在理由はない。
ここのところを、多くの人たちは誤解しているように思われる。
私は料理人だから、自分の作る料理は、心をこめて作るが、それからさきは、まったく未知の世界に属することになる。
つまり、あとでお客様がその料理とワインを楽しまれ、なにか感銘を受けられたとしても、それはそのお客様個人の感銘である。
そのワインや料理が、だれにでも合うものであると断定することができるのであろうか。
だから、私は、ワインだけをとりあげるのには賛成ではなく、また料理とともにワインを論ずるにしても、その論ずる人の経験とか、環境、つまり生活の背景みたいなものまで確かめてかからないといけないと思うのだ』
(辻静雄 (1973)『フランス料理の手帳』鎌倉書房, pp.161-162)
この文章を読んで感じたことは、心を込めて作った料理の美味しさを最大限に引き出せるワインの選択が「ベストな組み合わせ」になるかというと、そんなに単純なものではないということ。
主役は常にお客様、いかに楽しんでいただけるかどうかが一番大切。
一緒に食事をする人との弾む会話で、料理とワインの美味しさやペアリングの楽しさが変わってくると、私は今も思っています。