「God made cabernet sauvignon whereas the devil made pinot noir」
<神がカベルネ・ソーヴィニヨンを創り、悪魔がピノ・ノワールを創った>
カリフォルニアワインの伝説的醸造家・偉大なる指導者アンドレ・チェリチェフ氏(Andre Tchelistcheff)の言葉です。
チェリチェフ氏は1901年ロシア生まれ、チェコスロバキア(現チェコとスロバキア)の大学で動物学と一般栽培学を専攻しました。
結婚後パリへ移住、農園で働きながらパストゥール協会と国立栽培学協会で更に栽培学を学びます。
1938年春、ボーリュー・ヴィンヤードのジョルジュ・ド・ラトゥール氏と出会いスカウトされて渡米、アメリカでワインを造ることになります。
ボーリュー・ヴィンヤードは禁酒法(1920~1933年)の時代にもミサ用ワインを造り続けたトップワイナリーです。
ところがワインの品質は可もなく不可もなく凡庸なものでした。
1950年代、チェリチェフ氏の手腕によりワイナリーの評価が高まり、ウォルドルフ・アストリア、リッツ・カールトン、ジョルジュ・サンクなど多数の一流ホテルやレストランにワインが採用されるようになります。
そんなワイン造りのスペシャリストがつぶやいた「悪魔がピノ・ノワールを創った」という言葉の真意を考えてみました。
カベルネ・ソーヴィニヨンは幅広い気候や土壌に適応して個性を発揮、世界中のどこでも高品質のワインになりえるブドウ品種。神様が創った人々の糧となるワインの原料。
それに比べてピノ・ノワールは突然変異を起こしやすい遺伝子をもち、拳をぎゅっと握ったようにブドウの粒と粒が詰まっていて風通しが悪く病気になりやすい品種。
適合する気候と土壌を慎重に選んでも、気難しく気まぐれで不安定。
そんな難しいブドウ品種にもかかわらずピノ・ノワールの魅力の虜になり挑戦したくなるのは悪魔の仕業なのかもしれません。
ちなみにニュージーランドのコヤマワインズ&マウントフォードのオーナー小山竜宇氏のワインを高く評価しているイギリスのワインジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソン氏(Jancis Robinson)はピノ・ノワールを「ブドウの中のおてんば娘」と表現していました。
おてんば娘の方が可愛らしくて悪魔よりも美味しそうですね。
さて先月、毎年恒例となったワインサロン フミエール主催のコヤマワインズ メーカーズ・ディナーを四谷のフレンチレストラン「レスプリ・ミタニ・ア・ゲタリ」で開催しました。
供出ワインはタイプ違いのリースリング3種類と年号・畑違いのピノ・ノワール4種類。
ピノ・ノワールに合わせるメインの料理は一般的にはブルゴーニュ地方のブレス産の鶏とか鴨ですが、三谷シェフが選んだ食材は南仏ピレネー産のアニョー・ド・レ(乳飲み仔羊)でした。
仕事柄、フランスの地方料理とその地方ワインの組合せにこだわってしまうので、仔羊とピノ・ノワールを合わせることは個人的には滅多にありません。
三谷シェフの「仔羊は春が旬なのでそろそろ終わりに近づいているけれどメチャクチャ美味しいよ」という一言で決定!
その言葉通り、ゴロゴロ大きめにカットされた仔羊は柔らかいけれどしっかりとした歯触り、かめばかむほど肉の澄んだ脂がほとばしり出る美味しさ。
仔羊をひと口、ピノ・ノワールをゴクリ。
三谷シェフの仔羊と小山さんのピノ・ノワールのペアリングは最高のお気に入りに登録です。
実は小山さんが所有するワイナリーの敷地には羊が放牧されています。
羊を放牧するためにご近所の方にも土地を貸しているそうです。
貸した土地の代金は現物支給の仔羊の肉。
仔羊のローストとピノ・ノワールの組み合わせは小山さんにとって珍しいものではなかったかもしれません。
おてんば娘のピノ・ノワールをエレガントなレディに変身させる小山さんのワイン造りをこれからも見逃せません。