上野西洋国立美術館で開催されている松方コレクション展に行きました。
松方コレクションとは神戸の川崎造船所(現・川崎重工業)の初代社長を務めた松方幸次郎氏が、
1910年代から1920年代にかけてヨーロッパ各地で集めた数多くの美術品のことです。
なんと、浮世絵を約8,000点、西洋美術を約3,000点収集、総数1万点を超えていたそうです。
松方コレクション展の中で一番観たかったのはクロード・モネの復元された『睡蓮、柳の反映』。
1921年に松方氏がクロード・モネから直接譲り受けた連作『睡蓮』の中の1点です。
この作品は2016年にルーヴル美術館の一角で絵の上半分が失われた状態で発見されました。
上部だけが欠損してしまったのは、この絵が上下逆さまに保管されていたからとのこと。
農家の家に疎開されていた時期もあり、他の作品と重ねて保管してあったことや水や湿気の被害に遭っていたことなど、
悪条件が重なりひどい状態になってしまったそうです。
作品の全体像が確認できるのは欠損前に撮影された白黒写真のみ。
復元しようにも色がわからず色彩の推定が必要でした。
そこでAI(人工知能)の技術による復元が試みられたのです。
作品の残存部分を科学調査、絵の具を特定、モネが描く際の手順や特徴などを調べ、
人の手による推定後にAI技術で検証するという複雑な作業の結果、『睡蓮、柳の反映』は見事に復元されました。
復元された作品は2つあり、ひとつはデジタルで推定復元されたもの、
もうひとつは実物の欠失部分を補填せず下部だけ復元したもの。
実物の上部を復元しなかった理由は、歴史的資料としての価値を重要視して現状維持をしたそうです。
私が初めてモネの『睡蓮』を観たのはパリ1区にあるオランジュリー美術館です。
この美術館はもともとテュイルリー宮殿のオレンジの温室でしたが、
1927年にモネの連作『睡蓮』を収めるための美術館として整備されました。
モネの絵を飾るためだけに作られた楕円形の2つの部屋に8点の巨大な作品が壁一面に展示されています。
私が訪れた日は入場者が少なく1時間以上ボーっと絵を観ていました。
友人にピクニックに行こうと誘われてパリ郊外にあるモネの家に行ったこともあります。
パリからノルマンディー地方の入り口にあるジヴェルニー村まで80km程度、車で1時間ちょっとで到着しました。
広大な庭に植えられた美しい花々、藤棚、竹、しだれ柳、ポプラ、そして『睡蓮』のモデルになった池。
そんな素敵な庭のある家で晩年を過ごしたモネは食事にもこだわりがあったとか。
その証拠にキッチンからモネのレシピノートが発見されています。
後に「a la Table de Monet(モネの食卓)」というタイトルで本が出版されました。
鱈のブイヤベース・セザンヌ風、仔牛のオリーブ風、ジェノバ風パン、山ウズラのキャベツ添え、
カワカマスの白バターソース、シタビラメのノルマンディー風、桃のブルダルー、栗のガトーなど
美味しそうなレシピを再現した興味深い本です。
料理好きのモネはどんなワインを飲んでいたのでしょう。
モネの絵の中にワイングラスやボトルが描かれているものが何点かありますが、
代表作のひとつピクニックの情景を表した『草上の昼食』にもワインの瓶が描かれています。
その瓶の形状は肩はりのボルドー瓶。
ボルドーワインが好きだった?でもこんな逸話もあります。
モネは南フランスに実家がある画家のジャン・フレデリック・バジールに手紙を書きました。
「ワイン一樽を所望する」という内容だったそうです。
プロヴァンス地方の港町マルセイユに近いバジールの実家の周辺では、カシスやバンドールというワインが生産されています。
樽で送ってもらったかどうかは不明ですが、プロヴァンスのワインも好きだったかもしれません。
『睡蓮、柳の反映』はAIによって見事に復元されましたが、
クロード・モネが好きだったワインもAIで調査してほしいなと思っています。