1か月ほど前のワイン会で1967年のシャトー・タルボを飲む機会に恵まれました。
時の流れを感じる素晴らしい熟成を経ていました。
そういえば30数年前のことになりますが、パリのスーパーマーケットでシャトー・タルボのヴィンテージ違いを2本購入、グラスを並べて飲んだことがあります。
ラベルや記録がないので間違っているかもしれませんが、1968年と1969年ヴィンテージだったと記憶しています。
飲ませていただいたワインは同じ年号ではありませんが、30数年前に飲んだワインに再び遭えたような懐かしい気持ちになりました。
シャトー・タルボは、ボルドー地方メドック地区サン・ジュリアン村の4級格付けのワインです。
格付けとは1855年にパリで開催された万国博覧会にワインを出展するにあたり、メドック地区のワインに1級から5級まで順列をつけたもの。
1855年当時の格付けは全部で58シャトーでしたが、分裂したり合併したり最終的には61シャトーになりました。
サン・ジュリアン村には2級が5つ、3級が2つ、4級が4つ、合計11の格付けシャトーがあります。
北はポイヤック村、南はマルゴー村とそれぞれ1級格付けのある偉大な村に隣接したサン・ジュリアン村。村の入り口の四隅に「伝説の看板」と呼ばれるものが立てられていました。
書いてある文字は
『Passants Vous entrez sur l’antique et Célèbre cru de Saint-Julian Saluez!』
“通行人の皆様 あなたは古くて有名な畑のあるサン・ジュリアン村の入り口にいます。ご挨拶を!”
看板の前で敬意を称してお辞儀をしてくださいと促しているのだそうです。
この村の素晴らしさを伝えるために立てられた看板は、ロレーヌ地方出身のワイン商デジレ・コルディエ氏が掲げたものでした。
コルディエ氏は2級のシャトー・グリュオ・ラローズや4級のシャトー・タルボなどを所有し、1925年から1940年までサン・ジュリアン村の村長を務めました。
ほぼ70年に渡りボルドーの有力なワイン商としても名を馳せ、時代の先駆者として村を盛り立てた人でもあります。
1934年、第15代大統領アルベール・ルブラン氏を招いて「長寿祭」という異例のイベントを開催したそうです。
コルディエ氏は統計をもとにメドック地区の人々が他地域と比べて寿命が長いということに着目しました。
特にサン・ジュリアン村は80歳以上の方が他村よりも多い長寿の村だったのです。
そこで良質のワインは長寿をもたらす霊薬だと広報したそうです。
今でこそ、ワインに含まれているポリフェノールが心臓疾患に良いということは広く知られていますが、まさに時代の先取りをした人だったのですね。
サン・ジュリアン村には魅力的なワインが沢山あります。
「美しい小石」という名前のシャトー・デュクリュ・ボーカイユ(2級)、
ラベルに「ワインの王、王のワイン」と印字されたシャトー・グリュオ・ラローズ(2級)、
もともとは一つだった畑が分家して出来た“レオヴィル”3兄弟のシャトー・レオヴィル・ラス・カーズ(2級)とシャトー・レオヴィル・ポワフェレ(2級)とシャトー・レオヴィル・バルトン(2級)、
レオヴィル・バルトンと同シャトーでワインが造られるバルトン家のシャトー・ランゴア・バルトン(3級)、
日本が誇るサントリー社所有のシャトー・ラグランジュ(3級)、
イギリスのタルボ将軍に敬意を称して命名されたシャトー・タルボ(4級)、
海軍提督エペルノン公爵の城の前を船で通るときに帆を下げ敬意を称したことがラベル柄になっているシャトー・ベイシュヴェル(4級)、
ロアルト・ダールのミステリー小説「Taste(味)」に出てくるシャトー・ブラネール・デュクリュ(4級)、
荒廃したシャトーから復活し高評価を得ているシャトー・サン・ピエール(4級)。
先月のワインサロン フミエール月一回講座の研究会テーマは「サン・ジュリアン村」でした。
格付け11シャトーを並べてのテイスティングではありませんでしたが、サン・ジュリアン村の魅力が垣間見えたような気がしました。