Fumifumi談義~日本ソムリエ協会教本とルイ・パストゥール~

断捨離とは言えないかもしれませんが、資源ごみの日に日本ソムリエ協会の教本を30年分出しました。

30冊の教本を4分割して紐で縛り、家の2階から1階へ、そしてガレージの前まで。重たかった、、、。

本と知識の重さが同じとは言いませんが「この本すべてをスミからスミまで読んだのか」

と思ったら急にすごいことを達成したような気持ちになりました(笑)

余談ですが、私がソムリエを受験したときの教本の厚さはなんと1cm足らず。

2020年度版は3cm強、紙も薄くて上質、字のフォントも小さくて情報量たっぷりです。

毎年発行される日本ソムリエ協会の教本はページ数と情報が年々増えていくのが通常ですが、

数年前に「公衆衛生と食品保健」の項目が無くなりました。

保存料・酸化防止剤・添加物などはワインの知識として必要ですし、

食中毒・手洗い・殺菌・消毒は日常生活にも役立つものです。

あまり身近に感じられなかったのはWHO(世界保健機関)や感染症法の内容。

特に感染症の病名や感染力、罹患した場合の対処など専門的な内容は医療関係の勉強をしているような感じでした。

感染症法は危険性に応じて5つに分類され、それぞれ対策を定めています。

指定感染症はその5つのどれにも分類されないもので、

拡大によって生命や健康に重大な影響を与える恐れがあり迅速な対応が必要となる感染症です。

指定感染症と認定された事例は過去に4例ありました。

最初の指定は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、次に2006年のH5N1型鳥インフルエンザ、

2013年H7N9型鳥インフルエンザ、2014年中東呼吸器症候群(MERS)です。

新型コロナウイルスは5例目の指定感染症になります。

このような感染症を引き起こす細菌やウイルスが発見されたのは18世紀、

細菌学が体系化されたのは19世紀のことでした。

医学発展には古代から現在まで多くの偉人が関わっていますが、

微生物学や細菌学といえばフランスのルイ・パストゥールとドイツのロベルト・コッホがあげられます。

日本ソムリエ協会の呼称資格試験にもたびたび出題されるルイ・パストゥールは

教本の「ワイン概論」と「フランス・サヴォワ地方」に登場します。

「フランスの生化学者ルイ・パストゥール(1822~1895)は、

アルコール発酵が酵母の活動によるものであることを解明」、

「アルボワの町にはパストゥールが幼少期から過ごし、

個人的な研究のために使用した家が今もあり、博物館になっている」などなど。

酒石酸の研究論文で注目されたパストゥールは、

その研究をきっかけに化学から微生物学へとその関心を広めていきます。

私たちがワインや牛乳、ビールなどを安全に飲めるのも、

パストゥールの「腐敗を防ぐ低温での殺菌法の開発」によるものです。

微生物の研究を続ける中で、当時手術の時に確立されていなかった無消毒による感染症や、

人間やその他の生き物を苦しめるコレラやペストなどの伝染病に微生物が

大きく関与していることにもたどり着きました。

パストゥールは単に学者として伝染病に関心があったわけではありません。

長女を9歳で、二女を12歳でいずれも腸チフスで亡くしています。

四女は2歳で病死したそうです。

ワインに含まれる酒石酸の研究から、幼い我が子を亡くした悲しみを乗り越えて

人類を救う数々の研究と発見を成し遂げたパストゥールは偉大です。

以前から知っていた

「一瓶のワインの中には、全ての書物よりも多くの哲学が詰まっている」

というパストゥールの言葉。

気候、土壌、ブドウ品種、収穫年、造り手、いくつもの要素で多様さを見せるワインは

数え切れない哲学に溢れていると解釈していましたが、

新型コロナウイルス感染症に世界中が揺れ動いている今、

もっともっと奥深いものだと感じています。