
1995年から1998年にブームとなったチリのワイン。
当時、自称「チリカベちゃん」というチリのカベルネ・ソーヴィニヨン大好き女子がチラホラ出現しました。
「チリ」といえば、私の頭の中の100%中80%がワインで占められているのですが、残りの20%はチリ・スパイスを使ったチリコンカーニ(チリコンカン)やタコス、海老のチリソースなどの料理。
ところがチリ・パウダーやチリ・ペッパーなどのスパイスは国名チリとは関係なく、「寒い」「雪」「地の果て」など、厳しい自然を意味する言葉に由来しているそうです。
チリワインの歴史は16世紀半ばにスペインの宣教師がミサ用のワインを造るためにブドウを持ち込んだことから始まります。
そのブドウ品種は「パイス」。
カリフォルニアでは「ミッション」、アルゼンチンでは「クリオジャ」と呼ばれています。
フランスのブドウ苗木がチリに持ち込まれたのは300年後の19世紀半ば。
鉱山開発で富を築いたシルベストレ・オチャガビア氏が1851年に渡仏、ボルドー系のブドウ品種を中心に大量の苗木を持ち帰りました。
しかし、ワインを造るよりも鉱山での仕事の方が収益を上げることが出来る時代。
なぜワインを造ろうと思ったのでしょうか。
一説には鉱山で富を築いた人々はフランスへのあこがれが強く、しばしばボルドーに滞在してワイン文化を楽しんだそうです。
ボルドーの気候や地形に似ている自国の地で、フランスのようなワインを造ってみたいという夢を実現させたのです。
1979年にチリのワイン業界を急成長させる出来事が起きました。
スペインの生産者ミゲル・トーレス氏がクリコ・ヴァレーにワイナリーを設立、ステンレスタンクによる温度制御された発酵や、オーク樽を用いた熟成など、洗練されたスタイルへとワインが進化します。
そして1990年代半ばに日本での赤ワインブーム到来とともにチリワインは更に脚光を浴びることになります。
ワインは高級な飲み物で敷居が高いという概念を覆し、「手頃な価格」、「ブドウ品種名記載のわかりやすいラベル」、「親しみやすいシンプルな美味しさ」にワインファンの心をガッチリとつかみました。
2007年に日本とチリ間で結ばれたEPA協定(経済連携協定)により、チリワインにかかる関税が2019年4月完全撤廃となりました。
その2ヶ月前の2月にヨーロッパワインの関税もなくなりましたが、あいかわらずチリワインの輸入量はトップの座を守っています。
現在、チリ産ワインの輸入価格ベースは低いのですが、今後は付加価値のあるプレミアムワインへと変化を遂げていくはずです。
ワイン生産地も南北へと広がりをみせています。
北のアタカマ砂漠の南端は、もともとピスコ(蒸留酒)用のブドウが栽培されている暑く乾燥した土地ですが、沿岸部はフンボルト海流の影響で涼しく、砂漠でありながら個性的なソーヴィニヨン・ブランが人気となっています。
最南端の南極に近いパタゴニアにもブドウ畑が広がり、アウストラルと命名された冷涼な生産地にはイベリア半島のアルバリーニョが植栽されました。
さらに一時はカベルネ・ソーヴィニヨンなどの国際品種に押され、衰退の一途を辿っていたパイスやカリニャンなどが見直され、高樹齢のブドウから個性豊かなワインが誕生しています。
いつまでもコスパの良いワイン生産国と思っていたら時代に乗り遅れてしまいます。
常に前進しているチリワインの真の実力にこれからも注目したいと考えています。