英語で香辛料はSpice(スパイス)といいます。
ところが、日本で香辛料というと、スパイスだけではなくハーブもそのグループに入ります。なんだか、わかりにくいですね。
ヨーロッパでは、コショウ、クローブ、ナツメグ、シナモンなどのように自家栽培できない植物の根、茎、樹の皮、果実、種子類をスパイスと呼んでいます。
ハーブはオレガノ、バジル、タイム、パセリ、ローズマリー、セージなど野山に自生していた植物で、もともと薬草として生活の中に取り入れられていたものを指します。
太古の昔から香辛料は食用だけではなく様々な用途で使用されてきました。
紀元前4000年の古代エジプトでは、人が亡くなった後に魂が再び死者の体内に帰ると信じられていたため、王様(ファラオ)や身分の高い人々の亡骸はミイラにして永遠に腐敗しないことを願いました。
ミイラが完成する最終工程で、防腐効果が高いアニス、シナモン、クローブなどの香料を塗り細長い麻布を巻き付けたそうです。
エジプトのプトレマイオス王朝を最後に治めた絶世の美女クレオパトラはクローブの香りを好みました。
エキゾチックな香りがするクローブをベースにバラや麝香を加えて作った香水を愛用していたそうです。
クレオパトラが乗船する船の帆にはクローブのオイルが塗られ、風に乗って芳しい香りが漂ってくると人々は船影が見えないうちからクレオパトラの帰港を知ったということです。
さて、世界四大スパイスとして広く知られる、コショウ、ナツメグ、シナモン、クローブは、ワインの香りを表現するときに欠かせないものです。
黒コショウの香りは「ロタンドン」という化合物に由来するもので、フランス・ローヌ地方やオーストラリアを代表する黒ブドウのシラーに感じることがあります。
クローブは漢方薬の様な「オイゲノール」という独特な香りが特徴です。赤ワインでは主に樽を関与させたピノ・ノワールに感じることがあります。
日本を代表する白ブドウの甲州からクローブの香りを大なり小なり感じ取ることも出来ます。
ナツメグは古いプロヴァンス地方の言葉「Notz Muscada=ムスクの香りがするナッツ」が語源になっています。
ハンバーグやソーセージなど挽肉料理の臭みを抑える役目をする甘い刺激的な香りとほろ苦さが特徴です。
シナモンはアップルパイやクッキーなどお菓子の香りのアクセントに使われます。
京都の銘菓「八つ橋」のような神秘的でほのかな甘さとスッと鼻に抜ける爽快感があります。
ナツメグとシナモンは赤ワインの香りの表現によく登場します。
例えばボージョレ地区のガメイやロワール地方のカベルネ・フラン、イタリアのサンジョヴェーゼなど、軽やかでスパイシーな赤ワインの表現用語です。
香りの感度は個人差があるため、かならずしも特定のブドウ品種に香辛料の香りを感じる訳ではありませんが、ワインの中に知っている香りが見つかるとうれしいものです。
「黒コショウの香りを強く感じるシラーズだから牛肉のペッパーステーキと相性が良さそう」とか、「ナツメグ風味の海老グラタンにガメイを合わせてみようかな」など、料理とワインの楽しいペアリングが広がります。